要介護者の入居を前提とした住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅の運営と制度
住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(以下、「住宅型有料老人ホーム等」という)は、今や全国にたくさん存在しており、そこでの居住や介護等サービスの提供形態は、比較的柔軟に運営な制度設計により、大変多様になっているようです。
このサイトでは、過去にも住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の課題等をご紹介する記事を掲載しましたが、このところ、事業所数の増加や運営形態の柔軟さなどのせいか、こういった高齢者向け住宅の経営者や介護事業所の管理者の方々から、その経営管理やコンプライアンス等において様々な課題を抱えておられるというお話を伺う機会が増えました。
そこで、これらの事業が関わる制度や実際の運営形態を連載記事として改めてご紹介し、その課題を見ていきたいと思います。住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅については、選び方や費用などの情報は一定数あっても、その管理やサービス内容について触れられる機会は少ないように思います。今回の一連の記事の中では、そのあたりにもできるだけ踏み込んでご紹介することを試みたいと思います。
住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は、介護保険制度における施設や介護付き有料老人ホームと違い、介護認定を受けている方のみが入居することを前提としておらず、比較的柔軟な運営ができるようになっています。これは、要介護状態になる前に、見守り等がある住宅に住み替えた方が安心という高齢者や、万一の際に緊急通報できる設備があり、食事が提供されるなど、少しの生活支援を利用しながら比較的自由に日常生活を送りたいという高齢者のニーズを満たせるようにするためです。
このような、要介護状態の方の入居を前提とせず、柔軟な運営を行うことができるという住宅型有料老人ホーム等の趣旨に沿って、様々なニーズに対応しようとするところは、大手の介護関連事業者の運営する施設を中心にたくさんあります。
ところで、制度上、要介護者の入居を前提とせず、比較的柔軟な運営ができるということは、本来、介護を行う場合には一定以上配置が必要とされている人員の資格要件や人数も、最低限を定めるにとどめてあるということです。
一方、実際には要介護認定を受けた方のみが入居されている住宅型有料老人ホーム等も多数存在しています。
そうすると、本来は要介護認定を受けた高齢者の入居を前提にしている介護保険施設等に設定されている人員に関する基準は無いため、どのような人員が何人、どのように関わるかは、おおよそ事業者に任されているということになります。
現在は、病院ではなく自宅で最期を迎えらるようにということで、様々な制度やサービスの拡充が図られており、そのおかげで介護保険制度の施行直後に比べれば、様々な専門職や家族等の支援を受けて自宅で暮らすことができるようになってきています。住宅型有料老人ホーム等は制度上、在宅(自宅)として扱われ、このような場所が最期を迎える場所として選択肢に入れられています。
しかし、住宅型有料老人ホーム等は集合住宅であり、入居してしまえばご家族等であっても面会等の際に住宅型有老老人ホーム等と接する機会がある程度という場合がほとんどで、外部から施設の運営状況は大変わかりづらいものです。
このような場所で安心して最期を迎えるためには、その住宅型有料老人ホーム等が、最期を迎えようとする高齢者等を適切に支援する体制を整え、専門家等と連携しているということが前提になります。
また、最期を迎えるということでなくても、要介護状態である高齢者等を適切に介護し、支援できる体制がどのようかということは、その質を担保するためには極めて重要な要素であるはずです。
にも関わらず、住宅型有料老人ホーム等には、要介護状態の方へ介護を提供することを前提とした人員等に関する基準はありません。
そう考えると、ホームにより、その体制には大きなばらつきが生じ、結果的に入居者の生活の質が確保されるかという点においても、危うい状況が起こりかねない部分が制度上含まれているとも言えるのではないでしょうか。このことは、入居される方への影響もさることながら、入居者に介護等のサービスを提供するスタッフにも不安を感じさせます。これは、制度上の基準がはっきりしていれば、ある程度回避できる可能性が高い迷いや不安ではないかと思われます。また、事業者にとっても、たとえ意図しないとしてもコンプライアンス等のリスクを内包した経営を行うことになってしまう可能性があります。
ここで扱う課題は、大きく次の3点です。
1.住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅には要介護者等の人数に応じた人員配置の定めがない。
住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅は、要介護者の入居を前提としていないが、実際には入居者全員が要介護者という運営形態の施設が少なからずある。しかしながら、要介護者の入居を前提としていないため、入居者に介護等を行うための人員基準が明確に定められていない。このため人員とサービス提供についてどうすれば妥当かが曖昧になりやすく、事業者もそこで働くスタッフも迷う。また、入居者もそこで提供されるサービスの提供形態が複雑で分かりにくい。
2.住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅の利用料は、複雑でわかりにくい。
住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅では、要介護者のみの入居を前提にしていて訪問介護等の介護保険サービスの契約が付随し、介護等を提供する場合がある。(これは、いわゆる「囲い込み」であるとして、行政指導が強化される方向にある)この場合、制度の意図に沿って住宅に付随するサービスを提供するための人員を適切に配置して、その費用を自費(介護保険外)の生活支援サービス費や管理費として入居者からもらうよりも、負担割合に応じて自己負担する介護保険サービスの利用量を増やした方が、利用者の負担は軽くなり、事業者の収入も確保しやすくなる。このことが、住宅に付随するサービスの人員を配置して、訪問介護等の介護保険サービスの提供量に依存しないという、制度に沿った運営を行う住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅との価格差を生んでいる場合がある。これは果たして妥当なのか。
3.住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅で多くの介護を提供する場合、運営方法によっては、サービスの提供や、その質を確保するための管理が複雑になりやすい。
住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅と、特別養護老人ホーム、介護付き有料老人ホームでは、サービスの提供形態が異なる。住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅で訪問介護等のサービスが提供される場合、これらのサービスは建物から独立しており、その提供記録も別に必要になる。一方、特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームにおいては介護はその事業者により一元的に管理され、記録も一体的である。これらの違いは、外部からは分かりにくいが、本来、サービスの質にも大きく影響する重要な事項だと思われる。そして、この影響は、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅が、要介護者の入居を前提としている場合に、より大きくなる可能性がある。
介護を提供する高齢者の住まいにおけるサービスは、外部からは目が届きにくく、また利用者等にとっても、一旦入居してしまえば、簡単に転居したり、サービスを見直したりするのは難しい場合が多いものです。通常の商品であれば、消費者が次は買わないなどの選択をすることも可能でしょうが、介護を受けるために転居した場所で、日常生活を送るための支援をしている相手に対しては、苦情等も言い難いうえ、関係を解消することも簡単ではありません。他の業種・業態では重要な戦略として扱われることも多い顧客の囲い込みが、高齢者の住まいに係るサービスで規制の対象となるのは、社会保険料や公費であることに加え、利用者がサービスを選べる状況にないという実態によるものであると考えられます。
これらは制度的にも大変複雑で、根拠を網羅しながら説明していくのは難しいですが、介護が必要な方の入居を前提としないが、必要に応じてそのような方の入居も可能であるなど、幅広いニーズに対応できる高齢者のための住宅という制度の柔軟性が、運営の実態にどのように影響しているかについて、掘り下げてみてみたいと思います。
住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を運営する事業者にとっても、今後このような点に関する制度や市場がどのようになっていくかを注視し、対応を検討しておかなければならないのではないかと考えられます。
2021(令和3)年度の介護報酬改定において、住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅の運営に関わる改正がありましたので、以下の記事でその概要をご紹介しています。
2021(令和3)年度 介護報酬改定から抜粋 「サ高住等における適正なサービス提供の確保」
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