住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅のサービス内容

ここでは、住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅(以下、「住宅型有料老人ホーム等」)のサービス内容について見てみます。

サービスの構造について書いた記事で、「分離型」と「一体型」を説明しました。(参考記事:「住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅における介護サービスの構造」

サービスの内容を見ていくにあたり、これを改めて記載します。


①住宅及び住宅付属サービスと介護サービスを分離した形態(以下、「分離型」)

住宅型有料老人ホーム等には介護のための人員が厳格に定められていないが、事業者が住宅型有料老人ホーム等の人員について、入居者の基本的な生活支援や介護に対応できるだけの人数を設定して配置して運営する。これらの人員が提供するサービスに加えて、入居者の要望や心身の状況により、個別に介護等のサービスが必要な場合には、外部の訪問介護事業者等が、通常の自宅と同様に訪問するなどして、入居者の介護等、生活全般を支援する。

②住宅及び住宅付属サービスと介護サービスを実質一体とした形態(以下、「一体型」)

住宅型有料老人ホーム等には介護のための人員が厳格に定められていないので、事業者が考える最低限の配置とし、入居者の介護等、生活全般の支援は自社の訪問介護等がその多くの部分を担う。


この分類をサービス内容から考える上では、介護保険法上の特別養護老人ホーム[介護老人福祉施設]や介護付き有料老人ホーム[特定施設入居者生活介護](以下、「特養等」)のサービスとの違いを考えることが重要だと思います。

特養等では、建物と介護等サービスはもともと一体として指定を受けます。指定基準には、人員に関する基準、運営に関する基準、建物設備に関する基準があり、その中で、要介護者の入居を前提としてそれらの基準が定められています。特養等で提供される介護サービスは、基本的に建物とは分離されず、そこへ入居すれば人員基準に定められた人員が配置され、運営基準を踏まえた介護等サービスが提供されます。

一方、住宅型有料老人ホーム等では、建物と介護サービスはもともと分離されていますが、事業者により建物と介護サービスを分離するもともとの形である「分離型」と、建物と介護サービスを一体として提供する形である「一体型」が実態としてはあるということです。

住宅型有料老人ホーム等のサービスを考える上で、「分離型」については、入居者が自身の心身の状態などに応じて、入居とその他のサービスの組み合わせについて選択するため、入居者により様々な組み合わせが考えられ、事業者もその選択を尊重しています。

「一体型」の場合には、制度上、建物への入居と介護サービスが分離されている住宅型有料老人ホーム等でありながら、実態として入居が介護サービスの利用を前提としているということです。

住宅型有料老人ホーム等のサービスの特徴や課題を考える上では、制度的には分離されているが、実態として「一体型」である有料老人ホーム等のサービスと、もともと制度的に建物と介護サービスが一体とされている特養等のサービスを比較することが参考になります。


先ず、介護等のサービスを提供するために重要な、人員についてあたらめて確認します。

特養等では、もともと要介護者の入居を前提としており、住まいと介護サービスは制度上、一体です。よって、特養等を行うためには、建物・設備に関する基準のほか、介護のための人員の基準や介護施設としての運営基準が定められ、これを遵守する必要があります。人員基準のうち、介護職員、看護職員の数は、満たさなければ基本的に介護報酬が減額されるほか、その他の職種でも介護報酬の加算の取得等に影響します。

住宅型有料老人ホーム等は、建物と介護等サービスは別枠です。よって、建物および建物に付随した介護保険外サービスと、介護保険を利用した介護サービスは分離され、その建物に要介護者が入居することを前提としている場合でも、人員等の基準は設定されていません。(参考記事:「高齢者向けの住まいの人員に関する基準等」


次に、介護が必要な高齢者等が入居する施設等で、どのような介護が発生するかを見てみます。

  • 介護が必要な高齢者が入居する集合住宅では、夜間は巡視や排せつ等の支援、眠れない入居者への対応、ナースコールへの対応などが発生します。
  • 朝は、起床、着替えの支援や、車いすへの移乗や移動が必要になります。
  • 食事では、配膳や食事介助・見守り、下膳、口腔ケアなどが必要です。これは、朝食・昼食・夕食とそれぞれに必要です。
  • 入浴は、着替えの準備、衣服の着脱や移動の支援、体を洗う支援、入浴の介助・見守りなどが必要です。
  • 排せつの支援が必要な入居者へは、適宜この介助等が行われます。これには、時間を決めて行う場合と、入居者の要請やナースコールなどにより都度行う場合があります。
  • ナースコールは、日中も随時対応する必要があります。
  • 夜には、排せつ等の介助、着替え、ベッド等への移乗など、寝ていただくための介助等が行われます。
  • これら以外にも、判断や環境の変化、感情の起伏など、心理的な面への対応が必要になることも少なくありません。

日常生活において介護が必要な場面は、その方の介護度や心身の状況により大きく異なりますが、上記を個々の生活者が1日の生活の中でいつ行っているかを考えるてみると、おおむね時間が決まっているものもあれば、都度発生するものもあることがわかると思います。

そうすると、要介護者の入居を前提としてその生活全般の支援を適切に行うためには、少なくともこれらに適切に対応できる数の人員を配置しておく必要があります。特養等に人員の基準が定められているのは、施設内でのこのような介護サービスの必要性に対応するためです。

一方、住宅型有料老人ホーム等では人員配置に関する最低限の基準は明確ではありません。

実態として「一体型」で運営している場合には、一体とするサービスを、介護保険法上の訪問介護や通所介護としている事業者がが少なくなく、これらのサービスとの組み合わせで、入居した要介護者へ介護やその他の支援を行っています。


ここからは、特養等の施設と「一体型」の住宅型有料老人ホーム等でよく見る訪問介護との組み合わせによるものとを比較し、サービス提供形態の違いを見ていきます。

特別養護老人ホーム・介護付き有料老人ホーム等と住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅のサービス提供形態の違い
図:特別養護老人ホーム・介護付き有料老人ホーム等と住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅のサービス提供形態の違い

上図のように、特養や介護付き有料老人ホーム等では必要に応じて、必要な時間を使って介護等を提供できます。また、他の方の介護を行っているときに、ナースコールが鳴ることがありますが、その時に介助等を行っている高齢者の意向や安全に配慮したうえで、その途中でも他の方の介護等に対応することができます。

一方、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅で、訪問介護を組み合わせて介護等を行っている場合、生活支援サービスでは随時介護やナースコールへの対応ができますが、訪問介護の提供では、予め計画された時間に、計画された時間数(20分以上)、その間、他の方への介護やナースコールに対応することはできません。

訪問介護は、これを利用する高齢者等の居宅(自宅)を訪問して、必要はサービスを提供することを前提として制度設計がなされています。

高齢者等の自宅を訪問してサービスを提供する必要があることから、介護する側とされる側は、双方がその予定を認識しておく必要があり、あらかじめ、何日の何時に、どのような介護等をしに行くかが設定されています。(毎週〇曜日の〇時に、入浴介助と食事の介助に行くなど)

また、自宅で高齢者が他の高齢者と一緒におられることは基本的に想定されないことから、同時に複数の要介護者に介護等を行うことも、想定されていません。介護等の時間は予め対象として計画した方のみへの介護に充てるよう制度設計がなされています。

これらのことから、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅で、必要に応じて随時介護等を行ったり、ナースコールに対応するためには、訪問介護サービスではなく、生活支援サービスで行う必要があります。

しかし、生活支援サービスは介護保険適用のサービスではなく、全額自費であるため、月額利用料を低く抑えようとすると、多くの人員を配置することは難しくなります。(参考記事:「入居者の費用負担と介護保険サービスとの関係」

少ない生活支援サービス対応の人員で対応しようとすると、介助中のナースコールなど、重複した随時の介護等への対応がより難しい状況が多発しますが、訪問介護提供中の人員は他の入居者等への対応はできません。

実際には訪問介護中でもナースコールなどに対応せざるを得ない運営状況のところもあり、住宅型有料老人ホーム等で働き、実際に介助等を行うスタッフを迷わせる大きな要因となっています。

また、このような形態で運営を行う事業者にとっても、こういった運営方法が、貴重なマンパワーを介護の質の向上などに集中させることを難しくさせているというジレンマを抱えていると思われます。


一連の記事

「要介護者の入居を前提とした住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅の運営と制度」

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