入居者の費用負担と介護保険サービスとの関係

住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅には、訪問介護等介護保険サービスの提供を入居の前提としない分離型と、自社で訪問介護等のサービスを提供することを入居の前提とした一体型があり、分離型とするためには、生活支援サービス費や管理費をある程度高く設定しないと成り立たないことをご紹介しました。

今回は、これらの費用が入居者にはどのように影響しているかを考えます。


ここで、分離型、一体型の利用者の利用料を、次のように設定してみます。

住宅型有料老人ホーム等の利用料のモデル
住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅の利用料(月額)モデル(比較)

分離型の場合の入居者の月負担額は150,000円、一体型の場合の入居者の月負担額は200,000円です。


しかし、介護保険サービス費の実際の自己負担は、これを利用する方の介護保険の負担割合に応じた額となるため、仮に利用者の負担割合が1割だとすると、実質自己負担額はそれぞれ5,000円と14,000円になり、下図のようになります。

住宅型有料老人ホーム等の利用料モデルにおける実質自己負担額
住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅の利用料モデルにおける実質自己負担額の比較

このように、入居者の実質自己負担でみると、分離型は月額105,000円、一体型は74,000円となり、一体型の方が低くなります。

また、事業者にとっても、より自己負担を少なくして入居してもらうことを考えると、一体型にして生活支援サービス費や管理費を低く抑えた方が、収入の確保との両立がしやすくなるわけです。これは、事業者には、介護保険サービスの利用者自己負担以外の部分は介護保険財源から支払われ、収入を確保できるためです。

事業の在り方に影響を与える指針や登録基準を見ても、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の職員の配置は、「介護サービスの安定的な提供に支障がない職員体制」というように曖昧なものになっており、必ずこの人数を確保しなければならないというわけではありませんから、生活支援サービス費や管理費に影響を与える人員を最低限にすれば、この利用料を安く設定できます。

一方、制度上は「一体型」の運営は好ましくないとされているため、入居時にも住宅を運営する事業者の介護サービスの提供を前提としない説明をすることが求められています。

ただ、要介護者の入居を前提とした住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅が、「介護サービスの安定的な提供に支障がない職員体制」を取りつつ一体型でない運営をしていくためには、生活支援サービス費や管理費を上図左側「①住宅及び住宅付属サービスと介護サービスを分離した場合」のように、ある程度高く設定する必要があります。生活支援サービス費や管理費は、介護保険サービスではないため、当然全額入居者の自己負担です。そうすると、入居者を募集するにあたっても、比較的高い月額利用料で入居いただける方を対象とせざるを得なくなり、運営方法も見直す必要に迫られます。

事業者は、制度の趣旨を踏まえながらも高齢者の住まいを安定して運営したいと思っているでしょう。また、そこで働くスタッフは、よりよいサービスを提供して、入居者に安心して住んでいただけるようにしたいと思います。

しかし、前述のように利用料の設定において一体型への誘因は大きく、これは、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の事業者やそこで働くスタッフを悩ませる大きな要因の一つになっていると思います。

これが、一部の住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅が抱える、入居者の費用負担と介護保険サービスとの関係から見た課題です。


一連の記事

「要介護者の入居を前提とした住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅の運営と制度」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です