組織内部のリスク情報にまつわる葛藤

ケアマネジャーへの中立性確保の要請

愛知県の介護保険事業者を対象とした行政からの集団指導で、「ケアマネジャーは、集合住宅等の入居者へのサービスが過剰になったり、囲い込みにならないように、公正中立の立場から、ケアマネジメントを行うように」というようなことを言われたとケアマネジャーさんから伺いました。
立ち話しでそれを聞きながら、集団指導の冊子を見せてもらうと、集合住宅の入居者へのケアマネジメント、サービス提供の適切さの確保(文言は違っているかもしれません)が、行政による重点指導事項として挙げられていました。ケアマネジャーへのメッセージは、その指導の一環だったのかもしれません。

とはいえ、ケアマネジャーの立場からすると、集合住宅の運営は実質その事業者の方針によって行われているわけで、集団指導の話を教えてくれたケアマネジャーは、どう対応すればよいか迷っておられるようでした。まあ、現状を踏まえながら立ち回るようにするくらいしか仕方が無いと思っても、やはり専門職として今のやり方でいいんだろうかという心配も抱えておられるのだろうと思います。特に、行政からの指導を受けるような機会があると、不安が大きくなってもおかしくありません。

集合住宅(住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅)は、基本的に高齢者の住まいであり、見守りなどの生活支援や食事等のサービスが受けられますが、介護保険サービスによる介護を受ける際には、入居者がどの事業者のどのようなサービスを受けるかを選択し、契約するようになっています。(介護付き有料老人ホームは除く)しかし、集合住宅と同じ法人や提携法人などによる介護サービスがセットされていて、特定の介護サービス事業者との契約を前提とした入居契約をする、いわゆる囲い込みを行う集合住宅も少なくありません。
集合住宅で提供されるサービスには訪問介護やデイサービスなどがあります。これらは一定の限度額までは個々の負担割合に応じた自己負担でサービスを受けられ、サービス提供量に応じて事業者が得る報酬が増える仕組みになっているため、以前から過剰なサービスが提供されているという指摘があります。行政が重点指導事項に集合住宅でのケアマネジメントやサービス提供の適切さの確保を挙げているのは、このような状況への指導が必要だと考えているからでしょう。

しかし、集合住宅でのケアマネジメントにおいて、ケアマネジャーに対して公正中立の立場から適切なケアマネジメントを求めるというのは、確かに必要なことではあるだろうが、なかなか酷なことのように思います。
指導対象になる集合住宅や、それと組み合わされる介護保険サービス事業所、ケアマネジャーが所属する居宅介護支援事業所は、同一法人という場合も多くなっています。集合住宅で指導対象になるような過剰サービスを提供する傾向がある事業者なら、その基本的な考え方は、むしろそのような運営を是としているということですし、そのやり方で組織を維持しています。
ケアマネジャーが、その資格に基づいて業務を行ううえでは、利用者本位で公正中立の立場からケアマネジメントや給付管理を行う専門職として位置づくでしょうが、一方で、集合住宅で介護サービスを提供する組織の一部門に所属しており、過剰サービスか否かという妥当性云々よりも、一定以上の介護サービスの提供を前提として収支をバランスしているビジネスモデルにより事業活動を維持しようとする組織の一員でもあります。

ケアマネジャーが属する組織における有り方を、特定の分野で非常に高度な専門性を有する他の専門職らの業務と同質と見ることができるかということについては様々な議論があると思いますが、少なくとも、その資格取得の過程やこの職種を対象とした研修の中で、利用者本位や中立性の確保は繰り返し説かれています。それらは組織が短期的に収益を上げる上では相容れないように感じられる場合も多く、特に在宅サービスではケアマネジャーが計画に挙げないと事業者も介護報酬を請求できない仕組みですから、所属する組織によっては、中立性の確保等と収益の確保の両立という、ケアマネジャーという役割ゆえの葛藤は決して小さくないでしょう。

専門職やその集団と組織の論理とのコンフリクトにまつわる話は枚挙に暇がなく、コンフリクトが適切な牽制のように機能すればよいのでしょうが、そのバランスはなかなか難しいようです。

ケアマネジャーは当然、利用者等にとって公正中立の立場が必要であることを認識していると思いますが、所属する組織がその価値をそれほど重視しない中にあっては、自身の中に矛盾を溜め込んでいくばかりです。あるケアマネジャーが様々な疑念を感じながらも、所属する組織における貢献を無視するわけにはいかないと考えたとしても、それを責めることができるでしょうか。
その上、集合住宅で囲い込みのサービス提供を行えば、外部の目はほとんど入りません。利用者や家族も、サービスの妥当性を判断できるかというと難しい場合が多く、たとえ判断できたとしても、事業者に改善を求められない場合が多いでしょう。そこでケアを受けながら生活しているのだから、一般の商品のように、次は買わないというわけにもいかず、どう対応できるかは単純ではありません。

集合住宅ではなく、通常の在宅サービスの組み合わせによるケアマネジメントや給付管理ならば、それほど閉鎖的ではないため、様々なサービスをご利用者の意向に沿って組み合わせ、ご利用者やご家族の日常をより良いものにするための支援ができるかというイメージは比較的得られやすいでしょう。しかし集合住宅で、外部の目が一層入りにくい運営の中では、そのような組織の方針とケアマネジャーの中立性などとの一騎打ちになり、ケアマネジャーに圧倒的に不利な状況だと思います。

組織が事業の重要な要素に関わる内部の意見を適切に捉えられるか

当然、ケアマネジャーの視点が常に正しいわけではないでしょうし、組織の論理が常に悪いわけでもありません。しかし、一方的に組織の論理で突き進むようなことが起きているなら、その組織も根本的にリスクを抱えていると思ったほうがいいのかもしれません。そもそも、介護保険サービスにおいて集合住宅で囲い込みをして過剰サービスを積み上げて事業を維持するということ自体が適切かどうかという議論は以前から存在しています。
介護保険サービスに限ったことではありませんが、制度や法令遵守の必要性を学んでも、大きな投資を既にしていたり、代替案が得られなかったり、別の考え方を持つ人たちとの接点を活かせず、違うやり方で成功するという経験乏しかったりすると、やっていることに問題があっても、それを正当化したり、止めることが難しい状況に陥ることが起こり得ます。

今年の春、居住費や管理共益費、食事などを含めた月額利用料を安く設定したサービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームを全国に100以上展開していたN社が東京地裁より破産手続き開始決定を受けたとの報道がありました。
この破綻を分析している「サブリース問題解決センター」は、複数の原因を挙げていますが、その原因のひとつに、月額利用料を安く設定し、介護給付金収入を当て込んだ家賃支払いの構図が挙げられています。ここから、N社の経営は併設する訪問介護等の介護保険収入に依存していたことが伺えます。冒頭に書いた行政からの指導も、この点を指摘するものだと考えられます。
介護保険事業を行う上で重視される、利用者の状況に応じて妥当なケア内容と量を検討することよりも、介護給付費を一定以上に確保することが事業成立の前提となってしまう可能性が高いこのモデルは、介護保険制度が始まって早い時期に提供され始めましたが、その後、多くの経営者がビジネスモデル自体にリスクを感じ、改めたモデルでもあります。早い段階で方向性を変えた事業者の中には、現在、かなり大きな規模の介護事業会社になっているところも存在します。

平時からの多様な関わりが大切

専門職と組織のコンフリクトにまつわる課題は悩ましいですが、それでも、良い意味で組織自体がコンフリクトを内包し、維持しすることは重要だと思えます。専門職が専門性を発揮しながら組織の事業としても業績を上げていくことができれば、それはとても好ましいことだと思います。しかし、決して自然にそうはならず、コンフリクトがうまく活かされているなら、経営トップやそれに準ずる誰かの大きな努力が払われているはずです。

そう考えると、分かっていたが活かされないまま情報が置き去りにされ、組織を大きなリスクに晒すことが少しでも減るように、専門職や異論を唱える者を活かすことも、経営者の力量の内だということでしょうか。

受け入れがたい感情を感じたり、異なる意見を活かせない環境に陥っているとしても、少なくとも自身とは違う意見を持つ人たちと関わる接点を広く確保しておくということは、組織にとっても、経営者にとっても、とても重要なことなのでしょう。

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