住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅等での介護保険サービス一体型の制度上の課題(まとめ)
住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅(以下、住宅型有料老人ホーム等)について記載した一連の記事で、大きく次の3点を中心に見てきました。
1.住宅型有料老人ホーム等には要介護者等の人数に応じた人員配置の定めがない
2.住宅型有料老人ホーム等の費用(利用料)は、複雑でわかりにくい
3.住宅型有料老人ホーム等で多くの介護を提供する場合、運営方法によってはサービスの提供や、その質を確保するための管理が複雑になりやすい
先ず、1の「住宅型有料老人ホーム等では、要介護者の入居を前提としている場合でも、その人数に応じた人員基準が設定されていない」という点について、改めてその課題等を整理します。
本来住宅型有料老人ホーム等は、要介護認定を受けている、いないに関わらず、日常生活において何らかの支援(食事や健康相談、緊急時の通報など)が必要な高齢者が、それらの不安を少しでも解消し、生活できるようにすることを期待されています。このような高齢者のニーズに対応するためには、介護付き有料老人ホームや特別養護老人ホーム、グループホームのように、介護サービスの提供を前提として入居に対応するための人員基準を定めない方が、柔軟な運営が可能になります。
しかし、実際には要介護者のみが入居し、その介護等のために訪問介護などの介護保険サービスを建物と一体的に提供する住宅型有料老人ホーム等も多くあり、そのような状態でも要介護者の入居数等に応じて人員基準の定めがないというのは、大変心もとない制度設計に思えます。要介護高齢者が生活する施設では、入居されている方一人ひとりに対して、食事、入浴、排せつをはじめ、移動や移乗、着替え、口腔ケア、服薬など、様々な場面で定期に、または随時介護等が必要です。それらの介護等を支える資源が介護スタッフであり、その配置人数は介護サービスの質に大きな影響を与えます。しかし、そのような運営を行う住宅型有料老人ホーム等には必要人員数に関する基準がないのです。このことは、入居者はもとより、運営する事業者にとっても、そこで介護等を行う介護スタッフにとっても、大変大きな不安要素です。
仮に、住宅型有料老人ホーム等ではその建物側に人員が配置されていない場合には、一体的に提供する介護保険制度上の訪問介護等の提供(請求)ができないなどの制約があれば、介護保険外(自費)である建物に付帯したサービス(生活支援サービス費や管理費で賄われるサービス)と訪問介護等が分離しやすく、少しは運営がわかりやすくなるのではないかと思います。ただ、建物付随サービスの人員が配置できていない部分を訪問介護等で賄っている場合も少なくないと思われることから、このような制約を設けると、入居者にサービスが提供されないということにつながる可能性もあり、大変難しいところです。
次に、2の「利用料(費用)が複雑でわかりにくい」という点についてまとめます。
住宅型有料老人ホーム等への入居と訪問介護等の介護保険サービスの契約が完全に分離しており、住宅型有料老人ホーム等が高齢者等への住まいの提供とこれに付帯した介護保険外(自費)サービスによる生活支援や介護の提供で採算が合うように運営している場合(以下、「分離型」)、介護保険サービスを分離独立させやすく、入居者も自身の心身の状況に応じて他のサービスを契約するかどうかを決めるため、費用の考え方は比較的シンプルです。これは、先ず建物に住む費用と付随する介護保険外のサービスでいくらかかるかが決まり、あとは別途契約する訪問介護等の提供量により、料金が算定されるためです。
しかし、要介護者の入居を前提として訪問介護等を一体とした運営を行う場合、どこまでが建物に付随するサービスで、どこからが介護保険を利用するサービスかの線引きが曖昧になりやすくなります。
本来であれば建物に付属するサービスにはその提供のための人員が必要で、この費用は介護保険外のサービス費(自費)として適切に設定する必要がありますが、(費用の記事参照)月の利用総額を抑えて入居の敷居を低くするなどの理由で介護保険外(自費)のサービスの費用を低価格に設定している場合、事業者はどこかでそのマイナス分を補填しなければなりません。このために介護保険サービスを利用すれば、入居者の負担は負担割合に応じた額になりますから、入居者にとっても自費サービスよりも安く、事業者にとってもマイナス分の補填のために利用してもらいやすいという状況が生じます。しかしこれは、介護保険法等の趣旨に沿って住宅型有料老人ホーム等を運営している事業者や要介護者の入居を前提とした介護付き有料老人ホーム等の施設では、適切な介護保険外(自費)サービスの設定により利用総額が高くなり、これを介護保険サービスで賄う有料老人ホーム等では安くなるという、公平とは言えない状況を生みます。
これらは、制度の前提を知っている必要があるほか、複数の制度の組み合わせなどが複雑であるため、入居先を探しておられる高齢者等に説明するのが難しい場合も多く、介護保険制度等のプロでも入居希望者に十分説明できずに入居検討してもらっている場合があります。介護等を受けることを前提に入居を検討する方にとって、入居のための費用だけでなく介護等の費用も含めて月にどのくらいの利用料になるかは最重要事項の一つですから、適切に介護保険外サービスの価格を設定した事業者の方が高く、そうでない事業者の方が低いという単純な評価になりがちです。この逆選択のような状況は、通常のものよりも少し複雑です。買い手がその質を把握しにくいために、安いサービスや商品を買う方向に流れても、買い手は安い商品を買ったのであり、また事業者は安い商品を売ったということなら、対価性は確保されます。しかし、買い手は安いサービスを買いますが、その対価は公費によって高い状態で成り立っているというのは、適切な対価という考え方そのものが揺らいでいるように見えます。
また本来は高いものを公費を使って安く買えるという状況でも ある程度の透明性に基づく入居者の選択によって判断されるのであれば致し方ないかもしれませんが、その状況がわかりにくいために適切な判断が加えられないというのは、将来、本当に必要な人に必要な介護サービスを提供するという制度を長期的に維持していくことを考えると、問題なのではないでしょうか。
最期に、3の「サービス提供や運営が複雑になりやすい」という点をまとめます。
介護では、定性的な状況の把握と定量的な状況の把握の両方が必要になるため、ある時点で行った介護の内容、その時のご利用者の状況、および測定した体温や尿量などを時系列に記録していきます。入居者の状況などに関する定性的な情報は、入居者の介護に対する反応や入居者の心理的な面も含めた生活全般と介護サービス提供の結果として、入居者の生活状況の把握・報告や、介護の提供方法・コミュニケーションの見直しなどに利用されます。また、測定した体温や尿量などは、定量的にその値や有無を把握するために分離され、健康管理や医療機関との連携等に利用されます。このように、介護サービスの提供では、定量的な情報と定性的な情報を、それぞれその目的に応じて時系列に管理するのが一般的です。
要介護高齢者等の入居を前提とした施設(特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームなど)では、入居者の生活全般の介護や支援を一体的に提供し、一元的に管理することを前提に制度が設計されていますから、時系列にサービスを提供・管理し、定性的な情報と定量的な情報の把握をしやすい仕組みになっています。
一方、例えば住宅型有料老人ホーム等と訪問介護の組み合わせでは、住宅型有料老人ホームと訪問介護は、サービス提供形態も記録形態も異なることから別々に管理され、時系列に連続した状況の確認や介護等の提供には基本的に不向きです。
これは、入居者への介護等の提供は、その入居者の生活に合わせて連続しているのに、訪問介護の提供は、その提供時点におけるサービスを対象に、独立した提供・記録の形態になるからです。よって、このような方法で運営する事業者は、建物側のサービスと訪問介護のサービスの人員やサービスを、それぞれ独立させて管理し、その結果の記録についても、分離しているそれらの情報をいったん統合し、さらに定性的な情報と定量的な情報に仕分けすることになります。入居者の適切な支援に有効な連続した支援経過の確認のためには、もともと分離しているサービスやその記録をいったん統合するという手続きが余分に必要になるのです。
情報技術などによる統合で済めばそれほど大きな問題にはならないのかもしれませんが、人の動きそのものがサービスの質となりる介護では、このような管理は簡単ではありません。
これまで見てきたことは、遠くから見ているとほとんどわからない課題です。このように記事にしても、記事のわかりにくさも手伝って、理解いただきにくい部分が多くあったと思います。
しかし、費用やサービスの質に直結する部分に大きな矛盾を抱えているという状況は、住宅型有料老人ホーム等やその周辺の介護事業の様々な部分に大きな影響を与えていると思います。
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