住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅におけるサービス費用の構造
今回は、住宅型有料老人ホーム等の費用について少し見てみたいと思います。
別の記事で書きましたが、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は、ざっくりと、住宅及び住宅付属サービスと介護サービスを分離した形態(以下、「分離型」)と住宅及び住宅付属サービスと介護サービスを実質一体とした形態(以下、「一体型」)のものが存在します。
これを、費用の構造としてみてみると、以下の図のようなイメージになります
建物付属生活支援・介護サービスを行うための費用は、生活支援サービス費や管理費として徴収される場合が多いのですが、この図を見ていただくと、分離型と一体型では、先ずこの部分の費用に差があることがわかります。
生活支援サービス費・管理費の平均額(共益費を含んだ額)は、H28年で住宅型有料老人ホームで26,820円、サービス付き高齢者向け住宅で34,409円(『高齢者向け住まい及び住まい事業者の運営実態に関する調査研究報告書(平成29年3月野村総合研究所)』)となっていますが、このなかには分離型と一体型の双方が含まれていると考えられます。
この費用には、建物に付属する生活支援・介護サービスを行うために入居者から受け取っている部分が含まれているはずですが、要介護者を前提として入居してもらうには、住宅型有料老人ホームの指針上「介護サービスの安定的な提供に支障がない職員体制」をとる必要があります。要介護者が入居者の全部または大部分を占める場合、日中だけでなく夜間においても介護等が必要な状況が発生しますから、介護サービスの安定的な提供に支障がない体制をとるためには、介護を担う人員を適切に配置しておく必要があります。
ここでは、仮に介護のためのスタッフを常時1名配置する必要があるとして、そのための費用を考えます。
介護のためのスタッフの人件費を1人月額250,000円とした場合、常時1名配置しておくためには、1人が月168時間勤務するとしますと
24時間×31日÷168時間≒4.4人の人員が必要になります。
よって人件費は、250,000×4.4人=1,100,000円/月かかります。
先の生活支援サービス費・管理費の平均額(住宅型有料老人ホームで26,820円、サービス付き高齢者向け住宅で34,409円)を参考に、この費用を30,000円と設定すると、上記の人件費が賄える入居者数は、1,100,000円÷30,000円=36.7人となります。
つまり、40人程度の規模の住宅型有料老人ホーム等で、入居者から生活支援サービス費・管理費を30,000円(全額人件費に充てたとして)いただけば、常時人員を1名配置できます。
住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅が、40名程度の規模で運営をしていくためには、30,000円程度の生活支援サービス費・管理費を設定する必要があり、これを低く抑えてしまうと、人員の配置がままならなくなります。
このことは、先に述べた分離型と一体型のうち、分離型で運営するための条件に大きく関わります。
分離型では入居者の自由度を保つために、訪問介護等のサービス分離して運営しますが、この場合、家賃相当額と建物に付属する生活支援サービス・介護サービスに係る部分だけで、採算を合わせる必要があります。よって、分離型の運営を行うには、生活支援サービス費、管理費として適切な金額を設定しないと成り立ちません。
生活支援サービス費や管理費を低く設定している住宅型有料老人ホーム等も存在しますが、こういった施設では、常時人員を配置するための収入を別に得ることができないと、経営が困難になる可能性があります。
仮に、生活支援サービス費や管理費を10,000円と設定すると収入は40名規模で400,000円となり、常時人員を配置するための人件費1,100,000円を賄えず、毎月700,000円の損失が発生します。
住宅型有料老人ホーム等に併設した訪問介護サービス等を提供することを前提に、一体型な運営を行うのは、生活支援サービス費や管理費を低く設定したことによる損失を、併設の訪問介護サービス等の収入で賄うという部分が大きく関わっていると考えられます。
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