住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅 ~監視強化といわれる中での運営の検討(1)~

サ高住等監視強化-収支モデルからの検討-

サービス付き高齢者向け住宅等の監視強化というのは、どういうことなのか?

2021年度の報酬改定に関する社保審-介護給付費分科会資料(R3.1.18)に、「サービス付き高齢者向け住宅等における適正なサービス提供を確保する観点から ~略~ 家賃やケアプランの確認などを通じて、自治体による指導の更なる徹底を図る。」と記載されています。サービス付き高齢者向け住宅等の監視強化において「家賃の確認」が挙げられているのはどういうことなのか、収支モデルを使ってみてみたいと思います。

(この記事のモデルでは、家賃ではなく、管理費・生活支援サービス費の設定を取り上げていますのでご了承ください。家賃の額をどう設定するかはもちろん重要ですが、管理費・生活支援サービス費も含めた利用料の設定が課題であると考えるため、こちらを取り上げています。)


監視が強化される理由では、サービス付き高齢者向け住宅等において、併設する訪問介護事業所等による介護保険サービスの利用を前提として、運営を行っているところが少なくないからと言われています。なぜこれがいけないのでしょうか?

サービス付き高齢者向け住宅等は、本来、建物と介護保険サービスが分離しています。しかし、サービス付き高齢者向け住宅等に入居する入居者の月額利用料を低く設定しようとすると、各利用者の負担割合に応じた自己負担額となる介護保険サービスを使ってもらうと都合がよく、低く設定した月額利用料を補填するために介護保険サービスの提供を前提とする場合があります。運営の内容にもよりますが、この問題には本来入居者の自己負担となるべき費用の一部を賄うために、社会保険や公費を財源とする介護保険が利用されるということは如何なものか?ということが含まれていると思われます。自費で自由な契約に基づくものであれば、このような形で問題にはされないでしょう。

では、監視強化の流れの中で不適切といわれないために、どのように考えればよいのでしょうか?このことを収入と費用の設定の面からみてみたいと思います。

訪問介護等の介護保険サービスの利用を前提とせずに経営するためには、建物単独で採算が合う必要があります。サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームはサービス付きであるため、建物にサービス提供のための人員を何らかの形で置く必要があります。家賃の設定ももちろん重要ですが、この人員の人件費を入居者からの利用料等で賄えるように計画をしておかなければ、介護保険等のサービスを利用するように囲い込むなどして、補填する必要が出てくる可能性があるわけです。

そうすると、そもそもこれらの高齢者向け住宅は、ある程度高い月額利用料を支払っても入居したいと考える高齢者を対象顧客とした事業計画を描いておかなければなりません。それが難しいから月額利用料を低く抑えるようにしている、と言われれば元も子もないですが、福祉や介護保険等の制度上、負担の可否等も含めて様々なサービスの役割分担が設定されているわけですから、先ずはこの点をどう考えるかが課題になるかもしれません。

建物にサービス提供のための人員の人件費を管理費や生活支援サービス費で賄えるように設定した場合

30名規模で建物サービス人員を日中2名、夜間1名毎日配置した場合、サ高住や住宅型有老が建物側単独(建物と建物付属サービス)で採算が合うように検討してみます。

下表のモデルでは、建物サービスを担うための人員の月額給与を30万円に設定していますが、この人員を24時間毎日配置すると、常勤換算で6名以上の人員が必要となり、この人件費は200万円近くになります。そうすると、これを賄うための管理費や生活支援サービス費は、入居定員(居室数)30人で割っても月額7万円程度に設定する必要があり、これを入居者からいただかなくてはなりません。

他の費用等も考えますと、このモデルでは、入居者からいただく月額利用料は、18万円程度になります。住宅等の月額利用料が18万円ということは、これに加えて介護や福祉用具、医療を利用したり、日常生活費の負担なども考えると、月に20万円以上必要になると思われます。

月額180千円・3名配置・95%入居の収支モデル

この条件では、入居率が95%の時、月の収入が5,130千円、費用が4,455千円、収支差額が675千円、収支差率が13.2%になります。

また、このモデルでは、下表のように入居率が70%の時に収支差が0になります。(その他事業費を比率で計算しているため、これに含まれる固定費を無視してしまっていますが、、)

月額180千円・3名配置・70%入居の収支モデル

7割で収支がトントンというのは、それぞれの事業者によって良しとするかどうかが分かれると思いますが、30室中21室の入居が70%のラインとなります。

このように、訪問介護等介護保険サービスの収入に依存しない運営を行うためには、収支を検討する際に、建物サービス提供のための人員にかかる人件費を適切に賦課した利用料の設定が必要です。サ高住や住宅型有料老人ホーム等の月額費用が高いという声を聞くこともありますが、これは家賃多寡によるものだけではなく、建物サービス提供のための人員の費用を適切にいただく設定にしているからだとも考えられます。


次の記事では、建物サービスを提供する人員の費用が含まれる管理費や生活支援サービス費を安く設定した場合のモデルを見てみましょう。

住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅 ~監視強化といわれる中での運営の検討(2)~


ここでの収支モデルは監視強化への対応を収支の面からできるだけ簡便に考えるため、かなり簡素化しています。実際のシミュレーションにおいては、自社の実態や事業計画等を踏まえて十分にご検討ください。

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