複数の小規模介護事業所の管理
多くの小規模介護事業所の収支差には管理者がコントロールできない部分も多い
福祉関係の事業で、事業所の管理者に管理させる数字は、月々の利用開始・終了の数と利用率程度。ここに、売り上げはともかく、経費や収支差(利益)云々という話を持ってくると、おかしくなることがあります。
複数の事業所を展開する福祉関係の事業者の会議で、その経営者さんが事業所の収支差を問題にして話を展開している場面にいくつかあたったことがあります。サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)がたくさんできてきて、ここ数年よく見るようになりましたし、どのように管理するのが良いかという話を伺うようになりました。
収支差を問題にするのは、事業所を管理する手段の一つとしてやっておられるのであって、その意図は理解できるのですが、多くの場合管理者は、「そんなの自分のせいじゃないよ」と思っていて、残念ながら経営者の意図とすれ違います。
福祉関係の事業で収支差に大きな影響を与えるのは、ご存じの通り人件費である。入所・入居・通所系の50%程度から、訪問系に至っては80%に迫る傾向の事業もあります。人件費以外を見ると、やはりこの手の事業には建物や設備が要るものが多く減価償却費や委託費がかかります。
複合の大型施設の施設長などとなればまた話は別ですが、私の知る限りでは、人事権を事業所の管理者に与えている経営者は多くないし、減価償却は開設時にはほぼ決まってしまいます。また、委託契約も経営者がというところが多いように見受けます。要は、収支差に大きく影響を与える費用をどうするかという権限を、事業所の管理者は持ち合わせていないわけです。
一方、収入についても単価はほとんど支援が必要な度合い等を示す介護度で決まる場合が少なくないですから、どの程度の介護度方に利用してもらっているかがカギとなり、これも開設時のコンセプトに大きく依存するでしょう。そうすると管理者がコントロールできそうなのは、どのくらい利用してもらったかという利用率の類くらい。そして、この利用率は重要です。
介護事業の日常管理は、利用者へのケアと人材のフォローがすべて
福祉関係の事業は、省令等によって施設・設備や人員の基準が定められているため、40人を想定した事業所であれば、そのように建物や設備がつくられているし、それに応じた人員配置が必要になります。
高齢分野のデイサービスのような形を考えると、要介護2の方が1日利用で6,700円(大規模/5h~7h未満想定)程度です。これを平均単価と考えて、40人定員、1月の営業日が25日なら40人×25日=1,000回の延べ利用数がアッパーとなり、目一杯利用してもらうと6,700千円/月の収入となります。(100%想定はまずないが、便宜的にということでご容赦を)
しかし、利用が5%少ないと、収入は335千円/月 減少することとなり、これは1人分の人件費に匹敵するような額となります。既に施設は用意し、人員を雇っているのだから、固定費を十分に賄う利用を維持することは必須です。
また、人材の不足が取りざたされるこの業界にあって、スタッフの継続への配慮も重要です。なんといっても、支援の質が維持できなければ、利用にも影響を与えかねないし、スタッフのやりがいにもつながらず、全体の歯車が狂いかねないため、管理者はその管理の多くをここへ注がねばならないでしょう。
このように、
- 収支差に影響を与える費用について、インパクトが大きいものを事業所の管理者は決められない。
- 客(利用)単価はほぼ所与である中にあって、利用率は収入を左右し、かつ管理者がコントロールできる可能性が高い重要な要素。
- スタッフが仕事を継続できることや、支援等の質にも傾注が必要。
ということで、利用率に関わることや支援等の質に関わること以外の部分については、管理者にさせるべきではない、というかその必要性が低い場合が少なくありません。
数字の管理は確かに重要だが、誰に何を管理させるかは十分に吟味したいものです。