組織の目的を達成していくためのコミュニケーションを仕組み・風土の視点から考える上で、先ず組織に対する基本的な考え方を押さえておきたいと思います。
組織の成立要件と設計原則
会社組織は、一人では困難な目的を達成していくために編成されていると考えられ、組織化によって役割やコミュニケーションの基本的な構造が形成されます。組織の成立条件として、バーナード(Chester Irving Barnard)は、「共通の目的・協働の意欲・コミュニケーション」を挙げています。
会社は、経営目的があり、貢献する意欲をもった社員が、コミュニケーションをとりながら経営目的に向かって協働することで、組織として成立しているということになるでしょうか。
これを踏まえると、組織体系は、目的を共有し、貢献意欲を持つことができ、円滑にコミュニケーションをとることができるように検討しなければなりません。
会社等の組織は、その目的や、必要な機能、規模などにより、様々な体系が考えられると思いますが、組織には設計原則があるとされています。それは、専門化、責任・権限の一致、妥当な統制範囲の設定、命令の一元化、権限の移譲という5つの原則です。
専門化の原則 | 役割を分担し、その専門性を高めることにより、仕事の効率を向上させる。一方で、機能分化した役割間の調整や統合も重要と考えられている。 |
責任・権限一致の原則 | 権限に対して責任が大きすぎると、貢献意欲は下がる。また責任に対して権限が大きすぎると、無責任な行動を誘発する。 |
統制範囲の原則 | 管理者の統制範囲には限界がある。1人の管理者が管理する人数は適切に設定する必要があり、これは管理対象の部門の業務内容によっても影響を受ける。例えば、定型化された業務の場合と非定型的で高い専門性がある業務である場合には、管理できる人数も変化する。 |
命令一元化の原則 | 命令は、1人の管理者から受けることを原則とする。複数の管理者からの命令が混在すると、円滑な業務の遂行が阻害される可能性が高まる。 |
権限移譲の原則 | 管理者は、定型的な意思決定をメンバーに任せ、非定型的、例外的な意思決定を行う。これにより、管理者が組織に必要な戦略的な決定や不測の事態への対応を行えるようにする。 |
部門内のメンバー間のコミュニケーション、部門間のコミュニケーション、メンバーの意欲や役割の認識に大きく影響するこれらの原則を押さえておくことは、その組織の目的を効率的に達成していくための組織化を検討する上で重要だと考えられます。
具体的な組織の体系とコミュニケーションルートの認識
次に、具体的な組織体系をみていきます。
組織体系の基礎には、指揮命令系統を示す「ライン」と呼ばれる系列と、ラインを支援する「スタッフ」と呼ばれる系列があるとされます。ラインは組織全体も目的達成のための直接的な業務を指揮命令系統の中で担い、スタッフは専門的な企画や人事、総務のようにラインの役割を支援する機能を担い、スタッフ部門はライン部門に対して指揮命令権限は持たないものとされます。
中小企業にもよく見られる上図のような組織体系は、指揮命令系列であるラインと支援系列であるスタッフが組み合わされたものです。
この例では、ライン系列に属する製造部門は、受け持つ製品の製造に特化し専門化することで高品質な製品等の製造を効率的に行います。また、営業部門は営業に特化することで組織の販売力を強化します。
一方、企画や人事、総務など各部門に共通する機能を専門的に担い、製造部門や営業部門を支援することで、ライン部門が担当分野に専念できるようにします。
このような機能分化によって、専門化や統制範囲、命令の一元化の原則を踏まえながら、効果的な組織化が検討されていきます。
しかし、実際の組織では、企画機能や人事機能を持つスタッフ部門が、ライン部門で得ある製造や営業部門を指揮命令するようなことが起こりえます。企画部門は、製造や営業、それらの管理に関する前工程に大きく関わる役割の場合がありますし、人事部門はそれぞれの役割を担う人員に大きく関わる役割を担うことから、スタッフ部門であるとはいえ、ラインに大きな影響を与える可能性は十分にあると思います。
そして、そのような状態を放置すると、指揮命令系統が混乱し、コミュニケーションが阻害されていきます。
このような場合に大切なのは、部門同士をつなぐ「線」における役割を担う人(多くの場合各部門の管理者とその上長)が、機能を果たせるかどうかです。
組織図上の線は、部門間の繋がりを示していますから、指揮命令系統の混乱など、部門間で調整が必要な状況が発生した場合には、部門内のメンバーに大きな影響が及ばないようにするため、部門管理者同士が適切に調整する必要があります。
組織化では、部門と部門の調整機能を部門長が担う必要があるということを認識できるようにし、基本的なコミュニケーションの阻害要因に対応できるようにすることが重要です。
組織には様々な形態があり、それぞれの形態には長所、短所があると考えられます。どのような形態であっても部門管理者が部門内の統制だけでなく、部門間の調整機能も担う必要があることを認識し、その役割を積極的に果たすことができるように検討しておくと良いでしょう。