スタッフに自分で考えることを促し、モティベーションを伴った育成効果を狙うコーチング。

その効果を得るためには、しっかりとした従来型の教育、ティーチングを確実に行うようにしたいものです。


企業の人材育成にコーチングが取り入れられるようになって随分経ちますが、コーチングの技術を活かしてスタッフを育成していくのが難しいとお感じになることはありませんか?

コーチングの技法そのものをみても、そのアプローチにはコミュニケーション能力とセルフコントロールが求められるため、ある程度、相手へのアプローチの方法が明らかにされているとはいっても、やはり難しいものです。

しかし一方で、コーチングを使う場面が適切ではないことが、コーチングをさらに難しくしているということはないでしょうか。

「コーチングは、クライアントの生活と仕事における可能性を最大限に発揮することを目指し、創造的で刺激的なプロセスを通じ、クライアントに行動を起こさせる、クライアントとの提携関係を指す」

ICF 国際コーチ連盟は、コーチングをこのように定義しています。

定義では、コーチングを使う場面は特定されず、むしろ、クライアントに行動を起こさせる関係そのものを指していると考えられますが、ビジネスの場面では、特に仕事における可能性を最大限に発揮することを目指して受け手に積極的な行動を起こさせるための具体的なコミュニケーションスキルを学ぶ機会が多いのではないかと思います。

しかし、いざコーチングで学んだことを参考にコミュニケーションをとろうとするとき、特に経験の浅いスタッフへの育成過程ではうまくいかないことがあります。この原因の一つとして考えられるのが、対象者の知識や経験の根本的な不足です。

わからないスタッフ例えば、より高い山に出来るだけ安全に登るろうとする場面。

いざ山に登ろうとすると、

・必要な装備は何か?

・それぞれの装備の使い方はどのようか?

・コースの取り方は?

・いざという時の危険回避の方法は?

など、知識として必要なことがまさに山ほどあります。

意義を見失うイメージ

それらを全部自分で考えれば多くの時間がかかるだけで、実際山に登ってはみたものの知識不足では辛いばかりで楽しくもない、これでは山登りが煩わしくて仕方なくなるかもしれません。
もちろん、そこをコーチングによって前向きに取り組めるように支援していくということは考えられることかもしれませんが、かかる時間と効果をバランスさせるには、際限なく時間を使うわけにはいきません。本人が考えてもやり方が分からず、迷ったり調べたりしているうちにやる気を失っていく可能性を高めてしまうということも十分考えられます。また、山に登ったことが自分にも良い結果をもたらすというイメージが持てなければ、そもそも山に登る意義を認識できないかもしれません。

このような場面で有効な育成の方法は、やはり従来のティーチングであることが少なくありません。

コーチングは人材育成に有効な手段だと考えられますが、その活用には、ティーチングが必要な部分をよく確認しながら進めることが必要です。知識が不足していれば、たとえ有効なヒントを与えたとしても、自ら考え答えを導くことは難しいのです。

基本的な知識をティーチングにより適切に身に着け、経験を積む過程は、育成の基本的な制度として極めて重要です。そのような制度とコーチングと組み合わされることによって、より高い知識や技術の獲得が志向されたり、またそれらの知識をどう活かせば目標に到達するかを受け手がより積極的に考える可能性を高めると考えると、育成のステップも作りやすいのではないでしょうか。


スタッフの学習意欲には様々な要因が関係していると言われますが、一方的なコミュニケーションのみで行われる指導がティーチングの効果を落としてしまっていて、このことがコーチングを志向させる要因になってはいないでしょうか。このような時は、ティーチングで伝える情報や教え方に問題があるのではないかと疑ってみるのも一つです。相手の分かり難さに配慮し、細やかな手順等もしっかりと伝える、手続きの意味を伝える、不安の解消に努める、どこまでできるようになったのかを確認する、仕組み任せにしないで十分なコミュニケーションをとるなど、ティーチングに有効な仕組みやスキルは、コーチングとの相性も良く、これらをうまく組み合わせることで、高い効果が期待できるのではないでしょうか。